「病苦」から得られる世界 ~ 幸せの片鱗を求めて ~

【病苦と心】

 病苦は

 人の心を耕す「すき」である

 平板にふみ固められた心の土壌を

 病苦は深く深くほりおこし

 ゆたかな水分と肥料を加えて

 みずみずしく肥沃な土壌にかえる

 「深く」「肥沃」をモットーとして

 病苦に耕された人の心は

 よわよわしく柔らかいが

 柔軟にしなう強靱さをもっている

 そしていろいろのものを生み出すゆたかさと

 謙虚にものを見、「美しきもの」を讃嘆し

 事の真贋を見ぬき    

 すなおな喜びと悲しみに感動する

 深い深い苦痛の中にある

 一種清浄なさわやかさ

 自然が病苦に与える

 せめてもの代償なのであろうか

    東大医学部教授 細川宏氏

           (享年44歳)

「死」を前にした病気は

自然や生活の中に、これまでとは違う美しさや喜びを観る力を

与えてくれます。

そして、心の中にこれまで気にも留めなかった優しさを

感じる心が宿ります。

感性が研ぎ澄まされていくからなのかもしれません。

また、慌ただしい社会の流れから離れ、その流線を俯瞰できる余裕が

これまでの自分より一段高いところから全体を見渡せる視野も

与えてくれます。

物事の流れやこれまで知り得なかった奥に潜む真理や深さを眺め見れる

冷静さも得ることができます。

孤独と闘いながら、深い悲しみや苦しみと共に生きるその代償として

得られる、高尚な力だと思います。

だからといって、それらが「病気」や「死」の事実や不安・恐怖を

払拭してくれるものではありませんが、

少なくとも、「死」を前にした自分にとっての幸せの片鱗であることは

間違いないと思います。